近年、賃貸物件における「ベランダ喫煙」をめぐるトラブルが増加しています。喫煙者にとっては屋外でマナーを守って吸っているつもりでも、非喫煙者にとっては受動喫煙や匂い、洗濯物への臭い移りといった深刻なストレスになることがあります。
今回は、賃貸オーナーの立場から、ベランダ喫煙によるトラブルへの対応方法や、あらかじめトラブルを防ぐためのポイントを解説します。
1. なぜベランダ喫煙が問題になるのか?
喫煙者が自室のベランダで喫煙すると、煙や臭いは風に乗って上下左右の住戸に流れ込みます。とくに以下のような被害がよく報告されています。
- 洗濯物にタバコの臭いがつく
- 小さなお子さんや喘息を持つ方への健康被害
- ベランダでくつろいでいたところに煙が漂ってきて不快
- 火の不始末に対する不安
こうした被害は「気にしすぎ」と感じる方もいるかもしれませんが、受け手にとっては深刻で、住環境の満足度を大きく下げる要因になります。
2. 喫煙禁止のルールは法律で定められているのか?
現行の法律では、「ベランダ喫煙を禁止する明確な規定」はありません。ただし、民法第709条(不法行為)に基づき、「受忍限度」を超えた煙や臭いは違法と判断される可能性があります。
過去の裁判では、「日常生活に支障をきたすほどの煙や臭い」である場合、損害賠償請求が認められた例もあります。
つまり、オーナーが「ベランダ喫煙は禁止ではない」と放置していると、他の入居者の不満や、最悪の場合は法的トラブルに発展する恐れがあるのです。
3. トラブルが起きたとき、オーナーはどう対応すべきか?
実際に入居者同士でもめごとが起きた場合、感情的な対立になりやすく、オーナーや管理会社が冷静に介入することが重要です。対応のステップは以下の通りです。
① 双方の主張を確認
苦情を申し出た入居者と、喫煙者の両方から事情を丁寧に聞き取ります。
② 書面での注意喚起
喫煙者に対して、他の入居者の生活に支障をきたしている旨を伝え、改善を促します。口頭よりも書面の方が効果的です。
③ 共用部分での喫煙ルールの整備
「ベランダは共用部分に準ずる」とみなされる場合もありますので、共用部での喫煙を禁止する旨の掲示や周知文を配布します。
④ 再発防止の措置
継続的に苦情がある場合は、契約違反とみなして更新を拒否する、退去を促すといった対応も視野に入ります。
4. トラブルを防ぐためにオーナーができること
トラブルが起きてから対応するのではなく、事前の予防がもっとも効果的です。以下のような取り組みが有効です。
● 契約書に明記する
「ベランダ・共用部での喫煙禁止」「他の入居者に迷惑となる行為の禁止」など、契約書に具体的な文言を入れておくことで、後のトラブル時の根拠になります。
● 入居時にルールを説明
重要事項説明の際に「当物件ではベランダ喫煙は原則ご遠慮いただいております」と明確に伝えておきましょう。
● 共用部に掲示物を設置
「ベランダでの喫煙はご遠慮ください」などの注意喚起ポスターを掲示することで、マナー意識を高める効果があります。
● 喫煙スペースの提案(可能な場合)
敷地に余裕がある物件であれば、指定の喫煙場所を設けることも選択肢の一つです。
5. まとめ
ベランダ喫煙は、日常の些細な行動に見えて、入居者間の人間関係や物件の評判に大きな影響を与える問題です。法的にはグレーゾーンですが、オーナーが「何もしない」のではなく、予防と冷静な対応を心がけることが、安定した賃貸経営につながります。
これを機に、ご自身の物件の「喫煙ルール」や「契約書の内容」を見直してみてはいかがでしょうか?